LINEを応用したう蝕予防の試み
乳児へのう蝕原因細菌の感染は、主として養育者からという事実を踏まえて、養育者からのう蝕原因細菌の感染を最小限に止めることを目的として、養育者に口腔保健に関わる健康情報をLINEにて定期的に発信します。そして、3年後の幼児のう蝕発生状況を調べて、LINEによる健康情報提供の効果を検証します。
西 真紀子(にし・まきこ) 歯科医師
NPO法人 最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会 理事長
略 歴: 1992年 神戸大学教育学部卒業 1996年 大阪大学歯学部卒業、同大学歯科保存学講座入局 2000年 スウェーデン・マルメ大学カリオロジー講座留学 2001年 山形県日吉歯科診療所勤務 2005年~現在 ⑭モリタのアドバイザー 2007年 アイルランド・コーク大学で修士号取得 2010年~現在 NPO 法人 最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会 理事長 2018年 アイルランド・コーク大学で博士号取得 訳書に『デンタルカリエス』(医歯 薬出版 /2013/ 監訳 髙橋信博・恵比須繁之)、 『トータルカリオロジー』(オーラルケア /2014/ 著者 Bengt Olof Hansson・Dan Ericson) 『ウィルキンス 歯科衛生士の臨床』(医歯薬出版 /2013/ 監訳 遠藤圭子・中垣晴男ほか) がある。 監修に『歯みがきしてるのにむし歯になるのはナゼ?世界一あたらしいむし歯予防の本』 (オーラルケア/2014/著者 NPO法人「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)などがある。
う蝕は予防できる疾患であると認識されてから久しいが、いまだに世界中の小児の大半と、ほとんど全ての成人がこの疾患に罹患している。国際組織であるThe Alliance for a Cavity-Free Future (ACFF)が「2026年以降に誕生する子どもたちは生涯を通して齲窩を作らない」を第一目標にして様々な活動を行っているが、1990年から3歳児カリエスフリー者率91%(う窩のない子どもの割合)を達成している予防先進国のスウェーデンでも、2016年の19歳カリエスフリー者率(う窩)は39%だったことを考慮すると、どこの国でもう窩撲滅の到達は簡単ではないだろう。
日本では、2016年の歯科疾患実態調査より、2歳児の7%、3歳児の9%、4歳児の36%に既にう窩があった。カリエスリスクを改善しない限り、この子どもたちが生涯に渡る口腔の健康格差の不利益を被る可能性は高い。しかし、彼らも乳歯が生え始めた時はカリエスフリーであり、0歳から口腔内環境を整えるために周囲の大人が気を配り、日常的な介入を歯科専門家が行うことで、一生齲窩を免れることが可能になるかもしれない。
昨今の携帯電話の技術発達によって、医療分野へ応用するモバイルヘルス(mHealth)が脚光を浴びている。コクランレビューには、携帯電話のショートメッセージ(SMS)を使った様々な介入がまとめられており、特に禁煙教育メッセージにその効果が認められている。本研究では、mHealthを乳幼児のう蝕予防教育に利用する予定である。日本で最もよく使われているメッセージアプリであるLINE®(LINE株式会社、東京)を使って、対象となる乳児に影響を及ぼしそうな周囲の大人に日常的に知識を伝え、その乳児の99%に、4歳まで齲蝕から守ることができるのではないかと仮定する。
研究デザインは2群、単盲検試験ランダム化対照試験である。テスト群は、生後約100日~1歳未満の子の親、介護者、祖父母、叔父叔母などの親戚(18歳以上)で、週一回、3年間教育メッセージ(図)を送る。コントロール群は第一保護者のみで、3ヶ月に一回、研究プロジェクトについてのメッセージを送る。乳児が4歳になった時に、両群のカリエスフリー者率を比較する。う窩撲滅の目標(乳歯カリエスフリー者率99%)が達成できれば、本研究プロジェクトで使った教育メッセージに基づき、国内外で利用できる教育メッセージアプリの開発を行うことを念頭に置いている。