ACFF日本支部の活動方針は、生涯にわたって効果的なう蝕のマネジメントを促進することです。そこでは、患者、教育者、研究者および行政に携わる全てが、「う蝕は予防できる疾病であるが、幼児から高齢まで生涯にわたってリスクに曝される」ことを、広く強く認識されるよう活動していきます。また、ACFF 日本支部としての達成すべき具体的な活動目標は、以下の3項目を挙げています。

活動目標 1

幼児の口腔保健の格差を是正するために、地域行政に働きかけて、妊婦および母親教育を充実させる。

活動目標 2

生物学的なう蝕のマネジメントを推進するために、歯学教育にICCMS®を導入するよう、歯学部、学術団体、および行政に働きかける。

活動目標 3

高齢者の根面う蝕を予防するために、う蝕罹患に関する実態調査を行い、効果的な予防法を探索する。

 

ACFF 日本支部では、これらの目標を達成するために、臨床・研究・教育のエキスパート、行政および企業の皆様から広く意見を集約しながら、わが国のう蝕予防・マネジメントを推進するための提言を発信するシンクタンクとしての役割があると考えています。一方で、ACFF 日本支部の重要な機能は研究推進であると考えており、以下の4プロジェクトのために組織されたリサーチワークングメンバーが、すでに研究活動を初めています。

プロジェクト1.

高齢者の根面のう蝕発生メカニズムを解明する

高齢者に多発している根面う蝕は、口腔に露出している部分のみに発生し、歯周ポケットの中は発生しないものと考えられて来ました。そこで、本プロジェクトでは臨床サンプルを用いて、根面う蝕の発生部位や原因となる細菌を特定する予定です。これにより、新たな根面う蝕の予防方法の開発につなげていきます。

プロジェクト2.

理想的なオーラルフローラとは何か

口腔の細菌叢(オーラルフローラ)の研究は、加速度的に進んでいます。細菌学的な研究において、突き止めなければならないことは、健康なヒトが本来有するオーラルフローラとは何かということです。本プロジェクトでは、先端的な遺伝子解析技術を用いて、ヒトのあるべきオーラルフローラを探求します。その結果、う蝕予防・治療の目指すべき方向が明らかになる、礎となる研究です。

プロジェクト3.

ICCMSTM翻訳プロジェクト

日常臨床におけるう蝕の診断およびマネジメントについては、国際的学会組織が中心となり10年以上にわたって議論を重ねた成果をICCMSTM (International Caries Classification and Management SystemTM) として包括的かつ詳細な具体案を提唱しています。本プロジェクトでは、まず、ICCMSTMを翻訳し、わが国のう蝕予防・治療の臨床や教育に取入れる可能性や方策について、ワークショップなどを開催して議論することを計画しています。

プロジェクト4. (2023年) 

開発途上国におけるフッ化物配合歯磨剤の流通の実態調査研究

う蝕の予防や進行抑制にフッ化物が有効であること、また安全であることは、半世紀以上にわたる多くの研究が明らかにしてきた。このエビデンスの集積に基づき、WHO (世界保健機関) は2021年に、フッ化物を1,000-1,500 ppm 配合した歯磨剤は、人々が健康な生活を送るのに必須の医薬品であると認定した。先進諸国においては、ほとんどの歯磨剤に有効濃度のフッ化物が配合され、人々は日常のセルフケアでフッ化物のう蝕予防・進行抑制効果の恩恵にあずかっている。しかし、開発途上国すなわち低所得国では、歯磨剤の原材料、調達、製造、管理、販売などサプライチェーンに多くの問題を抱えている。そこで、本調査研究では、発展途上国の首都や商都において、一般の人々に普及している歯磨剤の製品を調べ、これらに有効濃度のフッ化物が配合されているか否か実態を調査する。続いて、フッ化物配合歯磨剤の価格について、人々の所得との比較値を算出し、その価格が一般の人々が難なく購買できる妥当なものか否かを分析・考察する。本調査の結果は、開発途上国 (低所得国) に住む人々の口腔保健衛生の向上、SDGsにおける目標3の「すべての人に健康と福祉を」や目標10「人や国の不平等をなくそう」に取り組むWHOのAction Plan (2023-2030) のうち、とくにう蝕罹患の低減を掲げるAction 26に有益な支援データとなる。

今後の展望

ACFF日本支部は、わが国のう蝕に関わる問題の解決を図り、これまでに達成したう蝕マネジメントをモデルケースとして世界に発信していきたいと考えています。そのために、臨床医、研究者、行政および企業から広く意見を求め、提言として集約していきます。同時に、生物学的および疫学的観点からプロジェクト型研究を推進し、その成果をより効果的なう蝕マネジメントに反映させたいと考えています。

ACFF日本支部は、まさに第一歩を踏み出したばかりです。「う窩のない未来」の実現によってわが国の口腔保健を増進すべく志高く取組む所存ですので、ACFF日本支部にご支援を賜りたくお願い申し上げます。

研究プロジェクト